2015-06-24
◆「道成寺 其の四」
お寺で聞いた「安珍と清姫の話(以下「物語」とする)」と、購入した道成寺の図録に掲載されていた話を元に、前回簡単なあらすじを紹介してみた。
物語には「火」と「水」、そして蹈鞴を思わせる鉄の話も出て来るので、
平安時代よりも、もっと古い話も取り込まれているのかと思っていた。
その路線も捨て難いが、実際に安珍と清姫のお墓が現在もあることや、現場で感じたことも踏まえると、やはり修行僧が女性に焼き殺されたという悲惨な事件はあったのだと思う。
怒りが頂点に達した清姫は大蛇の姿になってしまう。人が蛇に変身する訳はないが、物語で言うところの「蛇」とは仏教で言う所の「三毒」と呼ばれるもののことだ。
三毒とは人間の成長を妨げる原因、苦しみを生む要因で、それは三つあると考えられている。現代風に分かり易く言えば、三毒とはこのようなものだ。
・自己中心的な怒り
・度を越えた欲望・執着
・誤ったことを正しいと思い込むこと。無知。
仏教ではこの三毒を表現する時、蛇体の姿であると考えられている。
清姫は三毒に囚われてしまい、大蛇の姿になってしまったと表現されたのだと思う。
今残されている話を聞くに「特に安珍が悪い訳ではないのに殺されて気の毒だ」と思ってしまうが、
よく読んで考えて見ると、安珍も大概酷い対応をとっているのが分かる。
物語の後半部分、死んでしまった二人がやがて和尚の夢に二匹の蛇の姿で現れるという描写を見ても、
安珍を焼き殺してしまった清姫と殺された安珍の罪が同じであるという解釈だと分かる。
安珍の行動に着目し、気になった点をあげて見た。
①また伺いますと約束したのに、約束を破って来なかった。
②怒り苦しむ清姫に対し、謝罪の言葉も無い。
③後を追って来た清姫に「人違いです」と素知らぬふりをする。
④安珍は清姫から逃れるため、金剛童子の力を借りる。
金剛童子とは修験者を守護する神さまだが、この神さまの力を引きだすということは相当安珍も修行したと思われる。
なのに人を救うことにその力を使うのではなく、自分が清姫から逃れたいがために使う。
⑤先に舟で川を渡った安珍。船頭に金を渡し、清姫を渡すなと策略を巡らす。
一つ一つ拾っていくと、事の発端は安珍が約束を破ったことであり、その後も謝罪の一言もなく、
清姫に対し何の説明もなくひたすら逃げている。
安珍の対応次第では、清姫も殺人を犯すことは無かったのではと思えるのだ。
また、清姫の怒りの大きさや、和歌を交換するという背景も深読みして考えると、二人は一線を越えた間柄になったのではとも思える。
人を導く側の職業にある安珍が、結果人を破滅に導いてしまった。それは人を殺してしまった清姫と同罪と言えると、物語を残した人達は考えたのであろう。

清姫の墓は蛇塚として残されていたが、現在の道成寺の境内には無い。安珍の墓と離れた住宅地にぽつんとあった。
その背後には神社の森が見えた。

この神社にはお参りに行かなかったが、後で調べたら八幡社だと分かった。位置的に見て蛇塚を後ろから見ている格好になる。
この配置にも意味が有ると思う。清姫をこの場所に葬らねばならない理由があったのだろう。
亡くなった当初からこの位置だとすると、あえて二人の間を離して葬ったということだ。人を恨んで焼き殺してしまった清姫に恐れを抱いていたのだろう。
しかし、現在、清姫の塚に姿勢を低くしてお参りしたが、怖いとかきついとかという感じは全く無かった。これは、物語の最後、千手観音の慈悲の力と法華経の力により確りと供養されたからだ。
今では安珍と二人で、道成寺の守護神となっている。
最後に道成寺にて販売していた色紙を紹介する。

「西方極楽(阿弥陀如来の世界。極楽浄土のこと)」ではなく「妻寶極楽」である。
良き妻を娶ることは極楽ですよということですが、良き妻になるには旦那の協力もなくてはならないと
道成寺にお参りに行って良く分かりました。
おしまい。
物語には「火」と「水」、そして蹈鞴を思わせる鉄の話も出て来るので、
平安時代よりも、もっと古い話も取り込まれているのかと思っていた。
その路線も捨て難いが、実際に安珍と清姫のお墓が現在もあることや、現場で感じたことも踏まえると、やはり修行僧が女性に焼き殺されたという悲惨な事件はあったのだと思う。
怒りが頂点に達した清姫は大蛇の姿になってしまう。人が蛇に変身する訳はないが、物語で言うところの「蛇」とは仏教で言う所の「三毒」と呼ばれるもののことだ。
三毒とは人間の成長を妨げる原因、苦しみを生む要因で、それは三つあると考えられている。現代風に分かり易く言えば、三毒とはこのようなものだ。
・自己中心的な怒り
・度を越えた欲望・執着
・誤ったことを正しいと思い込むこと。無知。
仏教ではこの三毒を表現する時、蛇体の姿であると考えられている。
清姫は三毒に囚われてしまい、大蛇の姿になってしまったと表現されたのだと思う。
今残されている話を聞くに「特に安珍が悪い訳ではないのに殺されて気の毒だ」と思ってしまうが、
よく読んで考えて見ると、安珍も大概酷い対応をとっているのが分かる。
物語の後半部分、死んでしまった二人がやがて和尚の夢に二匹の蛇の姿で現れるという描写を見ても、
安珍を焼き殺してしまった清姫と殺された安珍の罪が同じであるという解釈だと分かる。
安珍の行動に着目し、気になった点をあげて見た。
①また伺いますと約束したのに、約束を破って来なかった。
②怒り苦しむ清姫に対し、謝罪の言葉も無い。
③後を追って来た清姫に「人違いです」と素知らぬふりをする。
④安珍は清姫から逃れるため、金剛童子の力を借りる。
金剛童子とは修験者を守護する神さまだが、この神さまの力を引きだすということは相当安珍も修行したと思われる。
なのに人を救うことにその力を使うのではなく、自分が清姫から逃れたいがために使う。
⑤先に舟で川を渡った安珍。船頭に金を渡し、清姫を渡すなと策略を巡らす。
一つ一つ拾っていくと、事の発端は安珍が約束を破ったことであり、その後も謝罪の一言もなく、
清姫に対し何の説明もなくひたすら逃げている。
安珍の対応次第では、清姫も殺人を犯すことは無かったのではと思えるのだ。
また、清姫の怒りの大きさや、和歌を交換するという背景も深読みして考えると、二人は一線を越えた間柄になったのではとも思える。
人を導く側の職業にある安珍が、結果人を破滅に導いてしまった。それは人を殺してしまった清姫と同罪と言えると、物語を残した人達は考えたのであろう。

清姫の墓は蛇塚として残されていたが、現在の道成寺の境内には無い。安珍の墓と離れた住宅地にぽつんとあった。
その背後には神社の森が見えた。

この神社にはお参りに行かなかったが、後で調べたら八幡社だと分かった。位置的に見て蛇塚を後ろから見ている格好になる。
この配置にも意味が有ると思う。清姫をこの場所に葬らねばならない理由があったのだろう。
亡くなった当初からこの位置だとすると、あえて二人の間を離して葬ったということだ。人を恨んで焼き殺してしまった清姫に恐れを抱いていたのだろう。
しかし、現在、清姫の塚に姿勢を低くしてお参りしたが、怖いとかきついとかという感じは全く無かった。これは、物語の最後、千手観音の慈悲の力と法華経の力により確りと供養されたからだ。
今では安珍と二人で、道成寺の守護神となっている。
最後に道成寺にて販売していた色紙を紹介する。

「西方極楽(阿弥陀如来の世界。極楽浄土のこと)」ではなく「妻寶極楽」である。
良き妻を娶ることは極楽ですよということですが、良き妻になるには旦那の協力もなくてはならないと
道成寺にお参りに行って良く分かりました。
おしまい。
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2015-06-03
◆「道成寺 其の参」
道成寺はその歴史、仏像、建物、どれを見ても魅力的だが、やはりこれを外してはならないものが「安珍と清姫」の伝説だろう。
能や歌舞伎で何度も舞台化している有名な昔話だ。道成寺では宝物館でこの物語の絵解きをしている。
昔は、お寺で絵解き(絵巻物を拡げながら解説すること)をすることは珍しくないことだったが、今では道成寺位しかやってないそうだ。
この「安珍と清姫」の昔話、今風に言えば女性からのストーカー被害に遭い、命を落としてしまった男の話である。
お寺のホームページにも分かり易く紹介してあるが、簡単に順序立てて紹介してみよう。
1 延長6年(928年)、紀伊国、真砂という所に清次の庄司という庄屋さんがいた。
ある時、そこへ旅の修行僧、安珍を泊めることになった。
2 庄屋の娘、清姫は安珍を好きになってしまう。「ゆっくりして行って下さい」と滞在を促す清姫。
修行中の身と断っていた安珍、清姫の説得に折れ、熊野詣の帰りにまた寄りますと約束。
二人は和歌を交す。
3 安珍が旅立って、約束の日が来たが安珍は戻らない。
4 心配になって旅人に安珍のことを聞くと、もうとっくに行ってしまったとのこと。ブチ切れる清姫。
5 乱れる衣服も気にせず60キロも追う清姫。すれ違う人達もその姿に恐れおののく。
6 清姫の追跡は切目五体王子という神社で、ついに安珍を捉える。
7 何故帰りに寄らないのかと問う清姫に、「人違いです
」と火
に油を注ぐ安珍。清姫更にブチ切れる。
8 恐れをなした安珍。金剛童子に助けを求める。
金剛童子の名号を唱えると、清姫、目が眩み動けなくなる。その隙に逃げる安珍。
清姫の怒りは頂点に達し
、あまりの怒り故、その姿が変化し始める。
9 安珍は日高川に出ると、そこから舟で向う岸へ。清姫も船頭に船を出せと言うも、船頭は断る。
どうも安珍からお金をもらっているらしい。清姫、服を脱ぐと川へ。やがて大蛇の姿
に。
10 川を渡り、道成寺へと逃げ込む安珍。道成寺の僧侶達、「鐘の中に隠れよ」と安珍を隠す。
そこへやって来た大蛇の清姫。境内を捜索し、ついに鐘の下に隠れていることを突き止める。
11 鐘を三巻半、蛇体を巻きつける清姫。鐘ごと安珍を燃やしてしまう。
あわれ安珍は焼死。我に返った清姫も絶望し、海に飛び込んで死んでしまう。
12 安珍を葬って、幾晩か経ったある日、道成寺の和尚の夢に、二匹の蛇が現れる。
蛇道に堕ちて苦しんでいるとのこと。和尚は法華経を写経し、安珍と清姫を
千手観音の御宝前で盛大に供養することに。
13 供養を行った翌晩、またもや和尚は不思議な夢を見る。
今度は二人の天人が現れ、立派に成仏出来たと伝える。
と云うものです。
道成寺に纏わる「安珍清姫物語」は昔から知ってはいたが、創作だと思っていた。
しかし、寺に訪れたことで判明したが、安珍と清姫の墓が何と残っていたのである。

境内にあった「安珍塚」は安珍を葬り、安珍が隠れた鐘も埋めたとされる場所。
そして怒りのあまり大蛇と化した清姫が燃やしたと云われる鐘楼 跡も残っていた。


初代の鐘は清姫が燃やし埋められた。
南北朝時代に造られた二代目の鐘は、豊臣秀吉が戦利品として没収していったらしい。
現在もその鐘は京都に残っていると云う。
そう、有名な道成寺の鐘は道成寺に無いのである。
それにしても安珍と清姫の物語は考え出すと面白い。次回はもう少し突っ込んで考えてみます。
続く~
能や歌舞伎で何度も舞台化している有名な昔話だ。道成寺では宝物館でこの物語の絵解きをしている。
昔は、お寺で絵解き(絵巻物を拡げながら解説すること)をすることは珍しくないことだったが、今では道成寺位しかやってないそうだ。
この「安珍と清姫」の昔話、今風に言えば女性からのストーカー被害に遭い、命を落としてしまった男の話である。
お寺のホームページにも分かり易く紹介してあるが、簡単に順序立てて紹介してみよう。
1 延長6年(928年)、紀伊国、真砂という所に清次の庄司という庄屋さんがいた。
ある時、そこへ旅の修行僧、安珍を泊めることになった。
2 庄屋の娘、清姫は安珍を好きになってしまう。「ゆっくりして行って下さい」と滞在を促す清姫。
修行中の身と断っていた安珍、清姫の説得に折れ、熊野詣の帰りにまた寄りますと約束。
二人は和歌を交す。
3 安珍が旅立って、約束の日が来たが安珍は戻らない。
4 心配になって旅人に安珍のことを聞くと、もうとっくに行ってしまったとのこと。ブチ切れる清姫。
5 乱れる衣服も気にせず60キロも追う清姫。すれ違う人達もその姿に恐れおののく。
6 清姫の追跡は切目五体王子という神社で、ついに安珍を捉える。
7 何故帰りに寄らないのかと問う清姫に、「人違いです


8 恐れをなした安珍。金剛童子に助けを求める。
金剛童子の名号を唱えると、清姫、目が眩み動けなくなる。その隙に逃げる安珍。
清姫の怒りは頂点に達し

9 安珍は日高川に出ると、そこから舟で向う岸へ。清姫も船頭に船を出せと言うも、船頭は断る。
どうも安珍からお金をもらっているらしい。清姫、服を脱ぐと川へ。やがて大蛇の姿

10 川を渡り、道成寺へと逃げ込む安珍。道成寺の僧侶達、「鐘の中に隠れよ」と安珍を隠す。
そこへやって来た大蛇の清姫。境内を捜索し、ついに鐘の下に隠れていることを突き止める。
11 鐘を三巻半、蛇体を巻きつける清姫。鐘ごと安珍を燃やしてしまう。
あわれ安珍は焼死。我に返った清姫も絶望し、海に飛び込んで死んでしまう。
12 安珍を葬って、幾晩か経ったある日、道成寺の和尚の夢に、二匹の蛇が現れる。
蛇道に堕ちて苦しんでいるとのこと。和尚は法華経を写経し、安珍と清姫を
千手観音の御宝前で盛大に供養することに。
13 供養を行った翌晩、またもや和尚は不思議な夢を見る。
今度は二人の天人が現れ、立派に成仏出来たと伝える。
と云うものです。
道成寺に纏わる「安珍清姫物語」は昔から知ってはいたが、創作だと思っていた。
しかし、寺に訪れたことで判明したが、安珍と清姫の墓が何と残っていたのである。

境内にあった「安珍塚」は安珍を葬り、安珍が隠れた鐘も埋めたとされる場所。
そして怒りのあまり大蛇と化した清姫が燃やしたと云われる鐘楼 跡も残っていた。


初代の鐘は清姫が燃やし埋められた。
南北朝時代に造られた二代目の鐘は、豊臣秀吉が戦利品として没収していったらしい。
現在もその鐘は京都に残っていると云う。
そう、有名な道成寺の鐘は道成寺に無いのである。
それにしても安珍と清姫の物語は考え出すと面白い。次回はもう少し突っ込んで考えてみます。
続く~
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